化学遺産に認定された南一号館「ドラフトチャンバー」

【2019/10/01掲載】

 平成31年(2019)3月17日に本学南1号館のドラフトチャンバーが公益社団法人日本化学会(以下、日本化学会)より化学遺産に認定されました。今回、化学遺産の認定を受けた事を記念して、学生、卒業生、教職員等の学習院関係者にその意義を広くご理解頂くために小文を認めました。

1.化学遺産
化学遺産とは、日本の化学分野の資料や装置の中で特に歴史的に貴重なものを日本化学会が認定したものです。これらの資料や装置を次世代に受け継いでいくと共に、化学分野の技術と教育の向上や発展に寄与する事を目的としています。平成22年(2010)3月に制定され、本年迄に50件の資料や装置が化学遺産として認定されています。

2.ドラフトチャンバー
ドラフトチャンバーとは、有害気体や揮発性有害物質等を取り扱う際に、作業者の安全を守るため不可欠な局所排気装置であり、化学分野を中心に大学や企業の研究機関で不可欠な装置として幅広く使用されています。現在のドラフトチャンバーは、据え置き型が多く、屋上等に設置した排気ファンで室内に設置した本体の有害物をダクト経由し洗浄装置にて浄化後、廃棄する方法がとられています。しかし、ドラフトチャンバーの発達の歴史に関しては不明な点が多く、古い施設も殆ど知られていません。

3.南1号館のドラフトチャンバー
南1号館は昭和2年(1927)3月に高等科の理科特別教場として、宮内省内匠寮によって建設されたものです。戦後は理学部の教室や研究室として使用され、平成22年(2010)3月迄の長きにわたり理学分野の研究教育施設として使用されていました。現在はその堅牢さを生かしながら改修を行い、一般教室として使用されています。なお、南1号館は国登録の有形文化財として登録されていますので、その歴史的価値や面影を失わないように配慮し改修されています。
さて、南1号館のドラフトチャンバーは竣工当時の設計図や取付仕様書も現存している貴重なものであると共に、技術的にも面白い工夫がなされており、ドラフトチャンバーの歴史を考える上で重要なものです。特に、小型で耐久性のある電動ファンがなかった時代に特徴がある工夫がなされています。その一つが、このドラフトチャンバーが、電動ファンの代わりにドラフトチャンバー上部にガスバーナーを取付け、ガスバーナーによる上昇気流により排気する手法です。いわゆる薪ストーブの排気原理を使用した興味深いシステムのドラフトチャンバーです。

4.化学遺産認定の過程
南1号館のドラフトチャンバーは上記に示しましたように日本の化学の分野では歴史的に貴重なものである事が分かります。
この貴重な化学遺産を見出したのは故・村松康行元教授です。村松元教授は、平成16年(2004)4月に理学部化学科の教授として着任以来、学習院の良さを数多くの方に知って頂くために色々な取り組みを行っていました。その一つが、教授として教育研究活動を行う傍らに取り組んでいた学習院大学史料館の研究員としての仕事です。村松元教授は、学生時代から慣れ親しんだ南1号館に特に強い思い入れもありました。その史料館研究員としての活動結果が南1号館の保存改修、しいては今回のドラフトチャンバーの化学遺産登録に繋がっています。また、村松元教授の研究室は着任時から南1号館の2階にあり、当該ドラフトチャンバーを平成22年の南7号館への移転時まで使用していました。なお、化学遺産への申請は、村松教授がお亡くなりなる2年前の平成26年(2014)頃に行われています。
村松元教授の略歴は以下です。
昭和37年(1962) 学習院中等科入学、高等科、理学部化学科を経て、昭和49年(1974)3月に自然科学研究科化学専攻修士課程を終了。Gottingen大学(ドイツ)にて博士号を取得。独立行政法人放射線医学総合研究所に勤務後、平成16年(2004)4月より理学部化学科教授、平成27年(2015)3月退官。平成28年(2016)7月2日ご逝去(66歳)。


5.参考文献
秋山隆彦 2019 「学習院とドラフトチャンバー」 『化学と工業』 72(7):563-565
学習院大学史料館編 2010 『学習院 目白の学び舎 学内に遺る歴史ある建築』 丸善プラネット
学習院大学史料館編 2013 『学習院大学南一号館 再生した旧理科教場』 丸善プラネット
学習院サポーターズ倶楽部会員Letter vol.11 September 2019

令和元年10月 山崎晶三(昭和47年理学部化学科卒)

<実験室内>
正面の2つの窓の部分がドラフトチャンバーである。

外から見たドラフトチャンバー(出窓の部分)。
1階に1か所、2階に3か所ある。